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依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長

第36章 謝罪の抱擁を


遠くで聞こえたインターホンの音。
重めの靴が落ちる音と、ガチャン、と閉まる鉄のドアの音。
バタバタっと短い廊下を駆ける音が、開けっ放しのドアから近づく。

ドクドクと早い鼓動。
無遠慮にきつく抱き締めてくる熱い体に、駆けてきたのだと気づく。
冷えた体がその熱を求めて震えると、よりきつく、強く抱き締められる。

コーヒーと煙草の混じった海の匂いに、一瞬で体温が蘇る。
温かい記憶しかない掌が冷たく、指先が震えている。
膝をついていた脚がズル、とローテーブルの下に伸びて、後頭部から腰までを熱い体温で包んでくれる。
ぎゅうーっと力が篭る腕。
さら、と肩から流れてきた赤髪が艶と深みのある色で、ほう、と落ち着いた息を吐くことができた。

遠くで、囁くように優しい声がいつもより低い声。
苦しかった喉からス、と息が逃げていく。

ギューッと抱き寄せられて、違う息苦しさを覚えた。

冷めた身体に熱がまわって、呼吸が整ってくる。

告白と、謝罪と、誓いと。
そして何度も呼んでくれる名前。
乾ききった唇の震えが落ち着くと、包み込まれた体温に、瞼が落ちてくる。

「がんばったな」
そう言って頭を撫でてくれる温かい手。
力が抜けていく体を熱に擦り寄せると、トクトクと少し早い心音が耳に直接響いて心地良い。
メトロノームのような音の響きに、より眠気を誘われる。

一瞬、ふわりと浮いた体に、夢だ、と思う。
意識が浮き上がる前の、睡眠と覚醒のちょうど狭間の時間。
どんな夢を見ていたんだっけ?

笑顔で、手を振る彼。
閉まりそうな扉を押さえたいのに届かない手。

  行かないでっ!

叫びたいのに、焼けそうに喉が痛くて声が出ない。
酷くゆっくりと閉まる扉の向こうで、笑顔だった顔が曇る。

  行かないで。  泣かないで。

       そばにいて。  抱きしめて。

ふわりと柔らかいところに倒れる。
さっきの固く、冷たい感触ではない。
ほんの少し、体が浮き上がる。
柔らかく温かい。僅かな風に、塩辛い海の匂いがした。

酷く冷えた唇に触れる熱。
かすかにかかる暖かい風。
荒れて苦しかった呼吸が嘘のように落ち着いて、ゆっくりと意識が沈んでいった。
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