依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長
第36章 謝罪の抱擁を
17時20分を指す時計に、そろそろ来るだろうと社教センターの少し外れに停めた車の中で顔を上げる。
ムスッとした顔で向かってくる🌸。
「っくく」
怒ってますオーラ全開の様子が、ライオンを威嚇する子ねずみのように見える。
「かわいいなぁ、もう」
今、面と向かって言ったら、ご機嫌を損ねるのは火を見るより明らかだ。
無言で助手席に乗った🌸が、バッグからハンカチを取り出し、その間に収まっていた万年筆を突き出してくる。
「どっかで紛れたらしいんだよなぁ。バギーが帰ってから見当たらないから探してたんだ」
白々しく受け取ると、顔を逸らされてしまった。
仕事の場で自分の存在を出された事がはずかしいのだろう。
顔を背けられたまま、髪を撫でる。
「バギー社長、すっごい笑ってた」
ヒーヒー言いながら笑ってた、とシートベルトを引く🌸。
「何がそんなにおかしかったんだろう」
「あいつのツボ、偶に訳わかんないんだよなぁ」
十中八九、予想はついている。
🌸が、今まで自分が相手にしてきたタイプと全く違う事が変にツボったのだろう。
「...似合わないって思われたのかな」
カチャ、と嵌めたバックルを握る手を取る。
「周りが決めることじゃないだろう」
指を絡めて握り、狭い甲に口付ける。
「あまり、こういうことは、してほしくない」
雰囲気の変わった🌸。悪ふざけが過ぎただろうか、と見やると窓の方を向く無表情の横顔。
はじめて触れる、🌸の本当の怒りの感情に心が冷えた。
右手で🌸の左手を強く握り、恐る恐る左手を伸ばして頭を抱き寄せると、素直に納まってくれる。
「ごめんな」うん、と頷くわけではない返事。
「今日は、送ったら帰る」
だからせめて、と小さい頭に擦り寄る。
帰らないでいい、と言ってくれる期待を一握り持っていたけれど、無言の彼女に、もう一度、ごめん、と呟く。
仕事を利用してからかうようなことをしたのが嫌だったんだろうか。
職場にプライベートなことを持ち出されたのか嫌だったんだろうか。
自分との関係を周りに知られるのが嫌だったんだろうか。
ほんのイタズラのつもりが🌸を傷つけた、と自分に腹が立った。
照れてるだけだと、笑って見ていた最初の反応が、グサリと深く突き刺さって痛い。