依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長
第34章 影だけを追う
今週、彼がランチを持参したのは火曜日と水曜日。
月曜日は祝日。火曜日はサンドイッチ。水曜日はしっかりとおかずが揃ったお弁当。昨日は打ち合わせで外に出ていた。
向かいのアメリも2日連続で持参された弁当が気になるらしく、昨日は所属以来、初めて弁当を持ってきた。
楕円の少し大きめなランチボックス。
同じ弁当持参組のヤソップに声を掛けられ、姉に持たされた、と言いながら不在の席を見ていた。
今日は週末の金曜日。
勤務先の目の前の交差点で信号待ちしながら、片手に下げたそれを見下ろす。
極偶にランチミーティングに声が掛かる事があるので、持参したのは久しぶりだ。昨日の帰りにスーパーに寄ったが、久しぶりの弁当に何をどのくらい買うとか分からなくなり、冷凍食品に頼った。
今日の彼のスケジュールを思い出し、昼食を会社で済ませるだろうと踏んでいる。
いつもより少し遅いながら、余裕すぎる時間を持って、持ちなれない手提げを落とさないようにパスケースを取り出す。
自動扉をくぐる直前、ガラスに映った真っ赤な車。
見間違うはずのないSUVに振り返ると、交差点の赤信号で停車している。ナンバーを見て彼だと確信した。
こんな早くに予定があっただろうか、と携帯で会社のコミュニケーションシステムにログインして彼のスケジュールを確認する。そこに外出の予定はなかったが、今日予定されている会議の出欠確認が更新されていて、昨日まで出席枠に記されていた彼の名前だけが、欠席に変わっていた。
街路樹が植わっている舗道を車道の方へ歩いていくと、珍しく窓がピタリと閉められていて煙草を咥えていない。手前に座る彼が、スーツではない外出の服装で左手だけでハンドルを握っている。
不意に、いつものように笑った。そして
「!?」
ハンドルに上体を凭れるような格好で、隣に伸びる右手。
その手で触れているのは、女。
(誰っ?なんでこんな時間に、)
駆け寄る衝動に駆られた時、女に促されて、信号が変わった交差点を走り抜けていくレンジローバー。
ガリ、と爪を噛むと、肩にかけていたバッグがずり下がって、手持ちの弁当が傾いた。