依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長
第34章 影だけを追う
パソコンの前。デスクを指先でタンタンタン、と叩く。
「セシル先輩、確認お願いします」
後輩のアメリに適当に返事をして書類を受け取る。
目の前には、社内メールやスケジュール管理ができるシステムの画面。社員全員に充てがわれているIDとパスワードで利用できるそれには、自分のスケジュールと業務上把握しておくべき社内の人間のスケジュールが見れる。
プロフィールで公開設定しているアカウントの誕生日は、勝手に表示されるようになっている。
3月9日には「【社長】さん 誕生日」の一文。そして、その下に同じく「誕生日」の登録。そこに書かれた名前の人物にあたるアカウントはない。
登録したのは、【社長】さん。
プライベートにも使えるように、シークレットモードも搭載されているが、あまりシークレットモードが使われることがないアカウント。
そもそもシークレットなのでこちらが確認はできないけれど、プライベートな食事や挙げ句、通知機能を頼りに「電球、トイレットペーパー」とか「単三電池」とか「酒、コーヒー豆」など本当にプライベートな買い物のリマインダー代わりにしている彼が登録した「🌸誕生日」。
何度も開いては閉じているそれの詳細は未記入。
登録されている日付は、3月9日。彼の誕生日。
(弁当の女、)
突然現れた予定に過るのは、以前、彼が食べていたサンドイッチ。
ちら、と目線をやった向かいのアメリは気づいていないらしい。他に人のいない部屋で、真面目に仕事をしている。
ガチャ、とノックもなく開いたドア。
「終わったー」「資料回覧、早めに頼む」
「B案件の進捗、最新で洗ってあげといてくれ」
「腹減った」
幹部職員と数人の社員が会議室から戻り、各々の席へ帰る。
軽やかなメロディが時計から流れて、12時を示す。
自席を簡単に片付けたヤソップが、毎日持参する愛妻弁当をデスクに出す。
ラッキー・ルウが、一週間分の食糧を買い出したときくらいの大きなレジ袋から肉メインの弁当や惣菜を広げる。
「また弁当か」
ベックマンが冷めているコーヒーを飲みながら、ニヤニヤしてシャンクスに言う。
いいだろ?と開けられるタッパー。まだ、飲み干されていないボトルは変わらずデスクにある。うまそう、と手に取られた割り箸の袋に書かれたコンビニは、1階に入っている彼の最寄りのコンビニとは別の名前だ。
