依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長
第33章 明かされた秘密
「ん、」
不意に浮上した意識で、すっかり隣りにあることが当たり前になった体温を探る腕が空振る。
(あれ、?)
広すぎるシーツの海を彷徨い、ゆっくりと目を開ける。
振り返ってみるが、そこに熱はない。
体を起こして顔にかかる髪をかき上げる。
「シャン、クス?」
時計のないこの部屋で正確な時間がわからないが、なんとなく夜中だろうとわかる。
(どこいったんだろ)
トイレ?と目を擦ると、外気に触れた肩がフル、と震えて肌掛けを手繰り寄せた。
微かな物音にベッドから下ろした足に、放られた服の感触。こちらで過ごすときの部屋着兼寝間着にしているオーバーサイズのトレーナーを着込む。
寝室のドアを少し開けて廊下を覗くと、リビングの方は暗いまま。
玄関入ってすぐの右手。
書斎で物音がして恐る恐る廊下に出る。
押戸が締め切られずかすかに開いていて、夜間常灯の廊下からの光だけが少し差し込んでいる。
フッと音もなく影が部屋から出てきて、とっさ空いていた応接室のドアの後ろに隠れる。
リビングの方へ行く背中を覗き見ると、咳き込みながら揺れている。開けっ放しのドアから水道の音がして、また幾度か咳き込む声。
そうっと廊下に出て、リビングを覗き込む。
片手で顔を覆い、暗いキッチンのシンクに手をついて俯いている影。
しばらく経って、ふうっ、と強く息を吐いて顔を上げた。
こちらに向かう気配がして、慌てて寝室に戻るとベッドに潜り込む。
(あ、トレーナー!)
気付いたときには、背後からスプリングの軋む音がして、頭を引き寄せられて足が絡む。
シャンクスの呼吸が少し荒い。
時折、息が詰まると苦しげに深く吐き出される。
恐る恐る薄目を開けると、縋り付くように抱きついている姿。
昔、保育園で保育士にしてもらったことを思い出し、真っ赤な髪に手を伸ばした。
(痛いの痛いの、飛んで行け)
心の中で何度か唱えながら柔らかい髪を撫でていると、あまり経たずに彼の呼吸が落ち着いて、体からふっと力が抜けていった。
すーすー、と顰めっ面のまま寝息を立てている顔にかかる髪を払う。
(私が、傷のこと聞いたから)
「ごめんね、」
届かない謝罪に、せめても彼の夢が穏やかであるようにと願って、額と頬の傷にキスをする。
そしていつもとは逆で、彼の頭を抱き寄せて腕にこめかみを乗せると、頭頂部にもキスをして目を閉じた。
