依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長
第31章 茶と白。赤と白。
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ジュー、と音を立てて焼ける魚。
少しフライパンを傾けて、滲み出た油と混ざったバター液を回し掛ける。
「...ずっと見てて、暇じゃない?」
ダイニングセットから引き寄せた椅子を跨ぎ座って、背もたれに腕を乗せて眺めているシャンクスに問いかけると、いいや、と首を振って、キッチンカウンター越しに覗き込んでくる。
「そんなに興味ある?」
「興味っていうか、物珍しい」
物珍しい?と彼を見やる。
俺、料理しないから、と笑っている。
ほとんど使われた痕跡のないキッチン。
レンジや湯沸かしポッドはある程度使われているよう見受けられたが、コンロとグリルは展示品みたいに綺麗だったので、一瞬使うのを躊躇われた。
「コンロと鍋で米が炊けるのは、🌸に、教えてもらったな」
そういえば、🌸の部屋にも炊飯器無いよな?と少し彩りの増えた調理台に目を細めている。
「炊飯器で保温したご飯、嫌いなの」
ほんの一瞬、時間が止まった。
椅子から立ち上がってカウンターを回ると、背後に立つ。
「危ないよ」
腰に回った腕をそっと撫でると頭頂部にキスが落ちてくる。
それから、スリスリと頬を寄せて、片腕で頭全体を抱き込まれる。
「シャンクスは、キスが好きね」
魚の様子を見ながら、慰めてくれる力強い腕を指先で撫でる。
「好きってわけじゃなかったんだけどな」
そうなの?と見上げる🌸に頷く。
「それは、5年ほどは遊びの女の子ばかりだったから?」
瞳に、誂いが見えて小さい鼻を摘む。
「本気で愛した女には尽くすタイプなんだ」
「え、意外」
笑った🌸に、ひでぇ、と肩口に額を擦り付けると、クスクスと耳を擽る笑い声が聞こえる。
ジュワーッと美味しそうな音と匂いに覗き込むと、いい焼色で魚の皮目がカリッと焼けている。
ざく切りにした野菜を周囲に敷き詰めて、ワインビネガーを回しかけると、蓋をして蒸し焼きにする。
「お米、食べる?お酒にする?」
晩酌する時はあまり米を食べない事を覚えていてくれる🌸に、少しだけ飲みたい、と顔を近づけると唇にキスをしてくれて、しばらく柔く温かい感触を、いい香りが充満するキッチンで楽しんだ。