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依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長

第31章 茶と白。赤と白。


車内で他愛もない会話をしていた。
ヴー、と短く鳴ったスマホを手に取る。

「あ、」「うん?」
小さく零れた🌸の声をシャンクスは聞き逃さなかった。
「ううん。なんでもない」笑って首を横に振る。
特に追求することなく、相変わらず片手でハンドルを握るシャンクスをちらり、と見上げ画面を見る。

「残業」と偽った内容に、スモーカーの返信は「無理するなよ」の一言。
どう返信したらいいか分からず、既読はつけずに待受け画面へ戻した。


「花、何が好きだ」「え?」
ん、と一瞬こちらに寄越された目線で、手元の携帯を示していることに気づいた。
「待受もカバーも花柄だったし、香水も花の香りのものを揃えているだろ」
だから花が好きなんだと思って、と交差で手前で止まる。
「はじめにうちに来たときも、ロビーの花に目を引かれていたようだったから、なにか花に思い入れがあるのか?」
再び走り出すと、バッグに携帯をしまった手を握ってくる。

「お花は、小さい頃から好き。両親と揃って出かけるのは、実家近くの緑地公園で、花壇が綺麗だったから」
だから多分無意識に、と少し、笑う。
そして、思い出す。今朝の彼から、一度だけ「物」でもらった贈り物も花柄だったと。彼はそれを知っていて、あのマグカップを選んだのだろうか。家庭のことを話した記憶は、ない。

  ✜

ルームミラー越しの🌸の表情に、眉を歪める。
なんでもない、と言った🌸が持つ携帯の画面が、サイドガラスに映っていた。
一瞬見えたバッジの付いたアカウントの登録名は「スモーカー」。プロフィール画像の設定されていないそのアカウントが、妙に残って落ち着かない。
そして、今朝と変わった彼女の香り。
花の香の中に、微かに自分のものではない煙草の匂いがした。
誰か同僚が近くで喫煙したとか、喫煙所近くで作業していたとかよぎったが、その匂いが、今朝、自分も嗅いだ匂いだと気づいた瞬間に脳裏に過ぎった白の影。

(カッコわり)
あからさまな嫉妬に燃えている自分を嘲笑う。
そして、素直にそれを確認できない、不慣れな弱虫。
朧気に脳裏に残る影に、お前は🌸の何なのだ、と問うたところで、答えなんて返ってくるはずはなかった。
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