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依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長

第30章 傍観の白煙


結局、🌸から連絡が来ることはなかったので同期には連絡もせず、たしぎにも声を掛けなかった。

(珍しいな。忙しいのか)
定時に勤務地を出て、しばしスマホを眺めて足を止める。
即レスが殆だった彼女が既読のみということに心配になり、駅に直行するか、センターに寄るか分岐路で悩む。
不意に隣を過ぎていった救急車。

(まさか、何かあったんじゃねぇだろうな)
今朝、少し様子がおかしい感じがあった。
驚いていただけかもしれないが、引っ掛かる。
もしかして体調が悪かったんじゃ、と思うと遠くなっていくサイレンに弾けるように駆け出した。


今朝と同じ道。
図書館に用があったことにしておけばいい、と職員通用口が確認できる角の喫煙所で待つことにした。

敷地内に入ると、来館者の車がいくつがある。
その中に目立つ真っ赤な高級車。
枠内にアイドリングで止まっている。

職業病で、少しでも見慣れないものや珍しいものを覚えておくのが癖だ。
今朝、敷地を出ていった車か、とそれとなく見ながら、煙草に火をつける。
エンジンの音が止んで開いたのは左の扉。素足にサンダルの脚。ツータックのダークスラックス。白のワイシャツ。
青の携帯に視線を落としている赤い髪の横顔は、警察組織内で知らない者はいない。

(っ赤髪!なぜこんなところに)
公共施設にいるには、少し不釣り合いな男。
かといって、今すぐに警察手帳と手錠で即拘束できる犯罪者ではない。悪い噂はちょくちょく聞くが、決定的な犯罪に関わっているわけでもない。今の所。
管轄部署が違うので、向こうは自分が警察の人間だとは知らないだろう。

携帯に視線を落としたまま向かいの少し先に立つと、手に持っていた小箱から茶色の一本を咥える。あまり見ない銘柄だ。100円ライターで火を付け、深く吸い、吐く。
警察の身としてはあまり一般人に関わってほしくないタイプ寄りの人間。

それとなく目線を寄越しながら片手に携帯を取り出すと、🌸から返信が来ていた。
どうやら入れ違ったらしく、受信したのは庁舎をでてすぐの時間。
残業をするから食事にはいけないことと部下によろしくというだけの文章。相変わらず、要件のみの簡潔な文章。
今朝の様子といい、できれば顔を見たかったが、またこうしてやり取りが出るのは、素直に嬉しいと思っている。
また改めて誘うか、と灰皿に煙草を捨てた。
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