依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長
第29章 それはすでにエピローグ
去っていく赤い車体を見送って通用口へ向かう。
開きっぱなしの職員通用口を抜けようとした時に懐かしい声に呼び止められた。
「相変わらず早いな」
なぜこのタイミングなのだろうか、とぎこちなく振り返る。
「おはようございます」
「おう。久しぶりだな」
当時とさして変わらない通勤スタイルの彼が手にしているものに気づく。
警備室につながる24時間返却可能のポストにそれを入れ込むと、じっと見下される。
「あー、元気だったか?」
「あ、はい」
異動して2年と少し経つ。
本部に戻ったんだろうか。
最後に連絡を取ったのはいつだったかも覚えていない。
自然消滅で終わった彼とお互いにこうして認識して会話するのは随分と久しい。
突然鳴った携帯の呼び出し音。
「はい、スモーカー」
1コール鳴りきる前に出るのは、変わらないらしい。
うんざりしたような顔で電話を切る。
「じゃあな」
「はいっ!いってらっしゃい」
(びっくりした)
手を振る背中を見送り、建物へと入った。
お互いの多忙が原因で連絡を取り合わなくなって終わった関係。
はっきりとお別れしたわけではないけれど、今の彼の態度を見て取るに終わっているという認識は合っているようだ。
そういえば、と一人、エレベータに乗り込んで表示盤を見上げる。
(ファーストキスと初体験の相手だったな)
それを思い出すと、恋人となった彼の昨夜の様子を思い出して一人赤面する。
(シャンクスは、どんな人とお付き合いしてたんだろう)
最後の恋人は7年前だと言っていた。
22.23歳の彼の隣りにいた女性は、どんな人だったのだろう。
それから今までは、まあ、遊び回っていたようなので、あまり彼との仲が広まらないほうが身のためな気がした。
執務室にあるロッカーに荷物を入れて、お弁当をデスクの一番下の引き出しに入れる。
大きなコンテナに溜まった郵便物を、執務室にある各課行きの小コンテナに仕分けるのが朝イチの仕事。
(サービス課、資料管理課、設備管理課、警備室...)
大量の郵便物を仕分けていたら、『RED Force』と書かれた封筒に手が止まる。
レターオープナーで開封すると送り状と三つ折りのパンフレット。
社報紙らしい。
表紙だけ確認して封筒に戻し、資料管理課行きのコンテナに入れて残りの郵便物を仕分けていると、予鈴がなった。
