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依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長

第28章 度外視の恋慕



『今更惚れ薬仕込まれてもなぁ...媚薬は、むしろ飲ませたい』

(なにそれっ!)
心配してくれたのは嬉しいけれど、駆け寄ってくれたりしないし、咳が落ち着く頃にはこちらに関心もなかった。
パウダールームで鏡の自分と睨み合って、手中のハンカチを握りしめる。
フツフツと湧き上がる感情を抑えるため、大きく息を吸って吐く。

レッドフォースに入社して5年目。
未だに転属希望者が絶えない秘書部秘書課。
配属希望の女性社員の中から入社一年目から勝ち取ったこの椅子は、比率として多くない女性社員の大半が狙っている。

誰かに譲る訳にはいかないから、仕事は完璧にこなしている。
適度に彼がくれる感謝や称賛の言葉が糧。
手放してなるものかという意地が原動力。

少しでも彼の中に自分が残るよう努力してきた。
コーディネートに赤を欠かしたことがないし、彼の中で印象づいてほしいと、コテでウェーブをかけた髪はいつも左側に流していた。
時折彼が握る、銀と青の丸っこい瓶の香水をいつもバッグに潜ませている。
寝る前に枕にワンプッシュするのが習慣。

採用翌年に先輩社員が退職した。
彼に想いを告げて断られたことが一因だと知った時には、すでに彼を愛していた。
何度想いを伝えようと考えたかわからない。
その度に、辞めた先輩のことを思い出して留まっている。

決めた女性がいないことは、業務の合間のやり取りから知った。
取引先からお見合いを持ちかけられた時のげんなりとした顔。
異性の影が見えた時に掛けられる幹部からのからかいに対する言葉。
毎年、会社主催で開催される3月の彼のバースデーパーティに同伴者がいたこともない。
接待で女性がいる店にも行っているようだし、業務上把握している彼のスケジュールに女性の影が見えたこともない。

執務室に戻る前に給湯室に寄ると、机にあったボトルが水切りかごに置かれていて、彼のカップは食器棚に置かれたままだった。少し温くなっているコーヒーを注いで、スティックシュガーとミルクを一つずつ添えて運ぶ。

デスクの彼に声をかけるが、気のない返事が来るだけ。
カップを置いて下がろうとした時、嗅ぎ慣れた彼の香りがなく、代わりに蜂蜜のような香りがして立ち止まる。
シャンプーの香りだと気づいたのは、パソコンに向き直った彼が、セットされることなく少し癖がついている髪をかき上げた時に強く、香ったから。
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