依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長
第26章 言葉でなくても❦
ガチャン、と背後で閉まった玄関ドア。時間稼ぎに階段を駆け下りる。少し涼しい外気温が、熱くなった体に纏わりつく。
つかつかと歩いて車に戻ると、ダッシュボードの煙草とライターを引っ掴む。火を付けたそれを浅く吸って、運転席の横にしゃがみ込む。
ドクドクと体を巡る血が増え、心拍が上がっている。
吐き出した紫煙が登る先を見上げると、後頭部がドアにあたる。
(ヤバかった...)
あのまま進めていたら、🌸をメチャクチャにしていた。
少し離れて冷静にならないと、おかしくなりそうだった。
ただでさえ、昨夜は酷い抱き方をした。
いつから🌸の意識がなかったのかも覚えていない。
また、同じ事をして🌸が自分との交わりに恐怖でも抱かれたら。
「ぁあー、狂ってる」
いや、狂わされてるのか。ガシガシと頭を掻いて、フィルターを噛み潰した煙草をすぅ、と最後に深く吸って、灰皿に押し付ける。
少し冷静になると、🌸に何も言わずに出てきてしまった、と気づいて、携帯を取り出す。すぐ戻る、と打った文を15分で戻る、に訂正した。
よっ、と勢いをつけて立ち上がると、後部座席に放り込んでいた紙袋を掴んで、少し先に見えるコンビニへ歩き出した。
やる気のない店員の声を無視して、目的のものを掴む。
お詫びというわけではないけれど、とボトルの紅茶と一緒に会計して、変わらずやる気のない声を背中で聞く。
(なにげに初めて買ったかもしれない)
いや二回目か、と来た道を戻りながら、小箱だけ紙袋に移す。
そもそも、自宅なり相手の家なりで事をすることも今まではなかった。ホテルが定番だったし、一緒に朝まで過ごしたこともない。いてほしいと強請られたことはあったけれど、適当な理由をつけて帰っていた。
けれど、🌸だけは自ら望んで側にいたいと思っている。離れるのが惜しい。手放したくない。
出て行ったことをどう詫びようか部屋の前で躊躇う。
(入っていいのか、インターホンを鳴らすべきか)
どうやらオートロック機能のなさそうな玄関に悩む。
出ていったことで少しの冷静さを得られたが、戻りのとこを考えてなかった。ここで勝手に開けようとして鍵がかかっていた時のショックを考えて、ボタンを押した。