第2章 煉󠄁獄家
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千「改めまして…弟の煉󠄁獄千寿郎です。兄をよろしくお願いします。」
「鬼殺隊、癸の五十嵐つむぎです。こちらこそお世話になります。よろしくお願いします。」
部屋に荷物を置いたつむぎは、改めて千寿郎に挨拶をしに行った。
そして、腕組みして見ている杏寿郎に『千寿郎くんと挨拶したよ。』と書いた紙を見せた。
すると、杏寿郎は口角を上げたままじぃっとつむぎを見る。
「どうし」
杏「千寿郎が "千寿郎くん" なら俺も "杏寿郎くん" なのではないだろうか!」
「あ…、確かにそうだね。ここではみんな煉󠄁獄さんだもんね。」
つむぎはそう呟くと杏寿郎にこくりと頷き、顔を覗き込みながら笑顔を見せた。
「改めてよろしく、杏寿郎くん。」
杏寿郎はその悪戯めいた笑顔を見ながら少し苦しいような妙な気持ちになった。
杏「紙に書いてくれ。」
「大した内容じゃないんだけど…もどかしいなあ。」
つむぎはそう言いつつもさらさらと筆を走らせる。
杏寿郎は書き出された自身の名を見て目を細めた。
杏「ああ。こちらこそよろしく頼む、つむぎ。」
「…………あ、うん…。」
つむぎは家族以外の男に下の名を呼び捨てにされた事がない。
(…びっくりした。)
そう思うつむぎの頬は僅かに染まっていた。