第9章 (※)依存
杏寿郎はその様子に微笑み、屈んで啄むような口付けを繰り返した。
「ん…杏寿郎くん、くすぐったい…。」
つむぎがそう言って顔を背けると、杏寿郎はすぐにつむぎの頬に手を当てて顔を正面に戻した。
見上げた顔には少し面白くなさそうな表情が浮かんでいる。
杏「杏寿郎 "さん" 、だろう。」
そうは言われても、空気に飲まれているとはいえ、呼び慣れた名が口を衝いて出てしまう。
「ごめん。……なさい。でも何でいきなり…?」
杏「その方が……恋仲らしいだろう。今の呼び方も好きだが、どちらかと言うと仲間らしい呼び名だと思ってな。」
杏寿郎は "妻らしいだろう" と言いそうになったが、既のところで思い留まった。
一方、つむぎは少し首を傾げながら頷いた。
「そう、なんだ…。そういう話、誰ともした事なかったから知らなかった…。です。」
そう飲み込むように納得すると、改めて杏寿郎を見上げる。
(………杏寿郎さん、か…。恋人の…杏寿郎さん。)
つむぎは再び心の中でそう呟き、杏寿郎の頬に恐る恐る手を伸ばした。
そしてぎこちない動きで確かめるように頬を撫でる。
杏寿郎はそんなつむぎの様子を大きな目で見つめていた。