第7章 二人切り
杏「……君には一目惚れと言ったが、正確に言うと見た目に持った好意は淡いものだった。確かな気持ちに変わったのは、君が耳の代わりを始めた初日だ。」
「そう…なんだ。」
そう答えている間にも杏寿郎はつむぎの髪を梳き、指に絡め、遊ぶように弄っていた。
その仕草が杏寿郎らしくなくてつむぎは大きな瞳で杏寿郎の指を見つめた。
杏「ああ。父上の気持ちを言葉にしてくれたあの時…、俺は君を側に置くと決めたんだ。」
それを聞いて初めて、つむぎは杏寿郎の今までの態度に納得がいった。
(あれは杏寿郎くんにとってすごく大きな出来事だったんだ。だから…束縛が強めというか、執着してるというか…私に対してそんな感じだったんだ…。)
杏「なのでまた頼みたい。あの時のように、世界を変えてしまうような瞳で力強く、言葉にして欲しい。」
そう乞われたつむぎは真っ直ぐに杏寿郎の頬へ両手を伸ばした。
そして確かめるようにスリッと撫でる。
「杏寿郎くんはお父様に愛されてるよ。」
微動だにしなかった身体の代わりに赤い瞳孔が少し開く。