第1章 始まり
——————
杏(五十嵐の考えは改めさせた方が良い。鬼殺隊は男所帯だ。腕っ節の強い男と同じ状況になったら…、)
朝食後の布団の中、そう思いながら隣で眠るつむぎの手首にちらりと視線をやる。
どう見ても華奢なつむぎはこちらを向き、すぅすぅと静かな寝息を立てていた。
杏(腕っ節が強くなくとも抑え込まれそうだ。そんな事を言えば怒ってしまうだろうか。)
視線が長い髪に移り、そして顔に移る。
杏(…………………………。)
あまり長く見ていてはいけない気がしてパッと視線を逸した。
杏(……『女扱いするな』というのは無理があるのではないだろうか。)
杏寿郎はつむぎの外見への淡い好意を持て余し、眉を顰めて目を瞑った。
それは吹けば飛んでしまいそうな程に小さな好意だった。
だが、鍛錬しかしてこなかった杏寿郎にとっては未知の大きな違和感であった。