第7章 二人切り
杏「『反対の意思をお示しにならないのなら、このまま話を進めます。』」
「…………………………え……?」
杏「君、中身を確認していなかったのか。諸々の日程は決まっているぞ。この手紙によると一週間後に蝶屋敷を訪ねるとの事だ。もし、」
一度言葉を切ると、杏寿郎はつむぎの頬に片手を添え、瞳を覗き込んだ。
杏「…もし、あの深澤という男が予想と異なり厄介な男だったらどうするんだ。力が強かったのなら、無理矢理にでも君を側に置こうと思っていたのなら、君はきちんと対処出来たか。蝶屋敷の場所を突き止めたように、呼吸についても知識があったとしたらどうする。それを乱されても君は本当に自衛出来たか。」
「……それは…、」
ここまで言われれば流石につむぎもしおらしくなった。
「ごめんなさい…。こんな事になるなんて全く想像してなかった…。」
杏「うむ、素直な "ごめんなさい" だな。偉いぞ。」
杏寿郎はそう言うと罰が悪そうにしているつむぎの頭を撫でた。
その脇に置いてある手紙には "ただの" 求愛の言葉が並んでいる。
先程の手紙の内容は全てでっち上げだったのだ。
杏寿郎はその手紙を畳んでサイドテーブルに投げると、しおらしいつむぎを抱き寄せた。