第5章 ※逆鱗
杏「…耐えられそうにない。つむぎ、上書きを」
「別れて。」
つむぎの言葉に杏寿郎が固まる。
つむぎは肩で息をしながら顔を背け、表情を隠していた。
杏寿郎が言葉を返すのも忘れて固まっていると、つむぎは沈黙に耐え切れなくて再び口を開いた。
「…ひ、一目惚れって、ようは見た目がたまたま好みだったってだけでしょ…。」
杏寿郎は答えず、ただ薄く口を開いた。
一方、つむぎは蜜璃を思い出してしまい、眉を顰めながらぎゅっと拳を握った。
「私だって…っ、私だって褒めて認めてくれれば誰でもよかった!別に杏寿郎くんじゃなくたって…、私にだって、他にッ」
つむぎは口を塞がれると杏寿郎を見上げた。
その顔は恐ろしく無表情であった。
(わたし…なんてことを、)
杏「認めない。」
杏寿郎はただ短くそう告げると、入院着の上を脱いだ。