第5章 ※逆鱗
「…………………………………………。」
杏「つむぎ。」
怒りを孕む焦れた声にビクッと肩を跳ねさせる。
つむぎはゆっくりと杏寿郎の顔へ視線を移した。
その瞳は見た事のない炎で燃えていた。
「ち………ちがうの………。」
証拠を残しておいて、つむぎは尚も否定した。
杏寿郎に見られた事によりパニックを起こしていたのだ。
そんなつむぎの両手首を杏寿郎が掴む。
それによってパニックは酷くなり、どんどんと息が上がっていった。
「おねがい…はな、して…っ、やだ…み、みないで…ッ」
つむぎは杏寿郎を拒みながら体を捩り、なんとかその場から抜け出そうとした。
しかし、震えるほど力を入れているのに杏寿郎の腕はびくともしない。
その弱々しい抵抗を見て、杏寿郎はつむぎがいかに非力で危うい存在であるかを思い知らされてしまった。
そして、それを汚された事実がどうしようもなく辛かった。
辛くて、受け入れがたくて、頭がどうにかしてしまうのではと思う程の怒りを覚えた。
それと共に、眉を顰める杏寿郎の額にビキビキと青筋が浮かぶ。