第5章 ※逆鱗
「…………………………。」
拍子抜けしたつむぎは肩の力を抜きながら病室に入った。
そして、椅子に腰掛けて杏寿郎の顔を見つめる。
(どんな戦いをしたんだろう。)
つむぎはきっと包帯だらけであろう体に視線を移した。
(柱……か。杏寿郎くんは立派だな…。いつも正しくて、強くて、太陽みたいで。なのに、)
杏寿郎の頬に触れようとしていた手が空中で止まる。
(わたしは…何もできない。約束も守れない、雑魚鬼相手に怪我して、人の事も妬んでばっか。全然杏寿郎くんみたいに出来ない。)
「わたしが隣にいて…いいのかな………。」
許されたくてぽつりと呟いた。
しかし、蘇ったのは今朝の男の舌の感触であった。
それと同時にガタッと立ち上がり、壁に片手をつく。
興奮した様子の男の姿がどんどん鮮明に思い出されていった。
(い、良いわけないじゃない……杏寿郎くんにはもっといい子が似合、う…、)
その時、蜜璃のふんわりとした空気を思い出したつむぎは、胸がサッと冷たくなったのを感じた。
(……そもそも私がいなくても、もう…問題ないんじゃ、)
杏「つむぎ…?」
杏寿郎は立ちながら泣いているつむぎを見て目を見開いた。