第5章 ※逆鱗
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し「終わりましたよ。丁寧に縫ったのでそれほど跡にはならないでしょう。骨折は一か所。松葉杖をお貸ししますので使って下さい。」
「ありがとうございます。」
しのぶはつむぎの暗い顔を見て眉尻を下げた。
し「これから会いに行かれるんですか?」
「……はい。」
沈んだ声を聞いたしのぶは、心配そうな顔をしながら松葉杖を差し出した。
し「煉󠄁獄さんの病室があるのは重症患者用の区域です。今は煉󠄁獄さんしか使っていません。これからつむぎさんが出てくるまでは出入り禁止にしておきますので、ゆっくり話してきて下さい。」
つむぎはそれを聞いて、しのぶは『本当の事を話すべきだ』と思っているのだと悟った。
「……ありがとうございます。」
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「…………杏寿郎くん。」
つむぎは病室の戸に向かって小さく呼び掛けた。
しかし、返事がかえってこない。
「………………はい、るよ……?」
そろそろと戸を開くと、杏寿郎はあどけない顔で寝てしまっていた。