第5章 ※逆鱗
「………全然気付かなかった…。」
しのぶは呆気に取られるつむぎをちらりと見た。
し「かざみさんってつむぎさんのご親族ですか?育手の方が近くにいらしたんですね。」
その言葉に頷く。
「五十嵐かざみは私の父です。同じ屋根の下にいたはずなのに…私、たぶん自分の事しか見てなかったから…。」
し「それだけつむぎさんが一生懸命だったという事です。…少し痛みますよ。楽にして下さい。」
「はい。」
つむぎは口を閉じ、杏寿郎の優しい声を思い出した。
(処置が終わったらすぐ行くべき…?あんな体で起き上がってくれたんだから、行かないのは……薄情かな…。)
そう思った時、左肩がねっとりとした嫌な熱を持つ。
(…………そもそも、私達の関係ってこのままで…いいのかな……。)
つむぎの気持ちはどんどん後ろ向きなものへと変わっていってしまった。