第5章 ※逆鱗
「これは…、その、」
し「煉󠄁獄さん、起き上がらないで下さい。」
つむぎは戻って来てくれたしのぶを見て少し安堵した。
杏寿郎はそれでもしっかりとした足取りで歩いて来る。
普通はそんな風に歩くだけでも激痛の筈だ。
杏「足を怪我したのか。」
てっきり『男隊士との距離が近い』と怒られると思っていたつむぎは、心底心配そうな杏寿郎の声にハッとした。
その心の綺麗さが今は苦しい。
「…うん。少しだけ。大した事ないから心配しなくて大丈夫。」
杏「目が赤いのは何故だ。」
「それは………自分が、不甲斐なくて……。」
杏寿郎はその答えに眉を寄せ、再び何かを問おうとした。
が、その前にしのぶが杏寿郎の前に立ちはだかる。
し「つむぎさんを早く処置して差し上げたいのでそろそろ切り上げて下さい。女性の肌にあまり跡を残したくないんです。」
杏「それはすまなかった!!」
杏寿郎はそう言って一歩下がり、再びつむぎに視線を落とした。
杏「つむぎ、また落ち着いたら話そう。…待っている。」
「………うん。」
つむぎは結局、最後まで杏寿郎の目を真っ直ぐに見ることが出来なかったのだった。