第1章 始まり
「母さん、ミキは?」
台所にひょっこりと顔を出し、エアリスは尋ねた。
母さんはエプロンで手を拭きながらリビングへ出てくる。
「さっき買い物を頼んだよ。どうかしたのかい?」
「ううん。教会に花の手入れに行くつもりだから、一応言っておいた方がいいかなって思って」
ミキはとても心配性だ。
わたしが一人で外へ行くとすごく怒る。
「教会へ行くのかい? だったら、ミキと一緒の方が・・・」
「だいじょうぶ。ミキ、まだ本調子じゃないだろうから」
そう言いながら微笑むが、母さんは暗い表情を見せた。
「でも、また神羅に追われたら・・・」
「わたし一人で振り切るよ」
いつもミキに助けてもらってばかり。
わたしだって一人で逃げるくらいは出来る。
それに――――ミキはまだきっと、怪我が治りきっていない。
もう大丈夫な風に装ってるけど、さすがのミキもあんな怪我が一週間ちょっとで治るわけがない。
「・・・ミキ、どうしたんだろうね」
「怪我のことかい?」
「うん」
一週間と少し前。
ミキは一人でどこかへ出て行って、それから丸一日帰ってこなかった。
心配して待っていたら、死んでしまってもおかしくないくらいの重傷を負って帰ってきた。
どこへ行ったのか、どうして怪我をしたのかを聞いても、何も答えてくれない。
・・・ミキはすごく強い。
だから、あんな大怪我をするなんて、信じられなかった。
「何度聞いても答えてくれないからねぇ・・・。よほど言いたくないことなんだろうさ」
母さんも心配そうに言う。
ミキが言いたくないなら、無理矢理聞くわけにもいかない。
でも、何も話してくれないのが――――少し、寂しかった。
「じゃあ、行ってきます」
「気をつけるんだよ」
後ろからかけられた言葉に振り返って母さんを見ると、小さく微笑だ。