第1章 始まり
私は武器を構えながら、お手製の敵役の人形を見据えた。
そこら辺に転がっているがらくたを組み合わせて作った人型の人形だが、鍛練をするときはいつも役立たせてもらっている。
その人形を敵と見立てて、そいつを倒すことだけに神経を集中させる。
ゆっくりと浅い呼吸を繰り返す。
空気と同調しているような感覚を引き出す。
・・・敵を倒すことだけ考えろ。
他のことは考えるな。
――――数秒後。
「はっ―――!」
小さく息を吐き出しながら、一気に人形の方へ駆け寄った。
人形の横を通り過ぎる瞬間に、ロッドを横向きに力強く振る。
人形の数メートル後方で、ザザッと砂煙を上げながら急停止した。
その瞬間、人形の上半分がポトリと地面に落ちる。
・・・よしっ。
私は満足げに微笑んだ。
だいぶん集中力が付いてきた。
「へぇ。珍しい鍛練をやってるんだな」
突如聞こえてきた聞き慣れない声に、私は反射的にロッドを構えた。
「そんなに警戒すんなって」
その人物は、数メートルほど離れた物陰から姿を現した。
黒髪の、長身の男だった。
ニヤッと笑った口元に、特徴的な淡い蒼色の瞳。
歳は17,8ほど・・・エアリスと同じか、少し上ぐらいだろうか。
私は警戒を緩めなかった。
「あなた、誰?」
「んー、まぁ自己紹介の前に・・・」
男性はそう言うと、背負っていた巨大な剣に手を伸ばした。
柄を両手で掴み、剣先をこちらに向けるようにして構える。
まさか――――戦う気?
「いっちょ、腕試しといきますかっ」
軽い口調でそう言ったとたん、男性は一気にこちらに接近してきた。