第1章 始まり
今は、夜だ。
夜中の11時。
スラム街では、時計を見ないと今が朝なのか、昼なのか、夜なのか分からない。
空が見えないので、太陽の光を浴びることもできない。
日の出も見られない。
夕焼けも見られない。
月も、星も見られない。
・・・スラムの上空を覆うプレートさえなければ、この時間は空に星が見えるんだろうな。
眠れない夜に、こうやって二階の窓から顔を出して、物思いにふけりながら星を眺めることができるんだろうな。
でも、空を見上げても見えるのは冷たい金属で出来たプレートだけ。
だから私は、さっきからずっと下を見ている。
エアリスが育てている花が咲き乱れる庭を、ジッと見つめている。
考え事をしながら二階から下を見下ろしているなんてなんだか変な感じだが、プレートを見つめているよりはずっとよかった。
・・・あの日のことを、思い出していた。
5年前。
私が『彼』と初めて会った、あの日のことを――――。