第1章 1
コンコン
また聞こえてきたノック音に応えるようにドアを開く。
「あ....」
そこにいたのはあの子だった。
思わず小さく声を上げた。
ドクンと胸が高鳴った。
「あ、すみません、お休みでしたか?」
「大丈夫、撮影再開するの?」
「あ、いえ、まだです。共演者の方がまだ到着されなくて...まだかかりそうなので、色々予定変更になったので、その打ち合わせに来ました。」
俺を起こしてしまったと言う罪悪感からか、彼女が申し訳なさそうに首を傾げて上目遣いで俺を見る。
俺は耳が熱くなるのを覚えつつ、ドアを開き彼女を中へと促した。
「どうぞ」
「失礼します」
ドアを支える俺の前を通り抜けて、彼女が部屋の中へと進む。
ふわりと彼女の髪の毛から漂うシャンプーの香りが鼻孔をくすぐった。
「ベッドでよければ座って?」
「失礼します」
彼女が遠慮がちに俺が寝ていた方じゃないベッドの隅に腰を下ろした。
「ちゃん、よかったら、なんか飲む?」
おれは部屋備え付けの冷蔵庫から天然水のボトルを取り出しながら問う。
「え!?」
彼女のびっくりしたような声が聞こえて、その予想外にリアクションに驚いて、おれは彼女を振り返る。
「え?どうしたの?」
ビックリと目を丸くして俺を見つめる彼女に、俺もビックリしてパチパチと瞬きを繰り返した。
「名前...覚えてていただけたんですね」
「あぁ、なんだ、そんなことか、びっくりした、おれなんか変なこと言ったかと思ったよ。いや、覚えるでしょ、もう何度も一緒に仕事してるよ?」
「そうですけど、わざわざADの名前まで覚えてくださるタレントさんてあんまりいないので・・・」
「そーだねー、俺は出来るだけみんなの名前覚えたいけど、タレントさんによっては名前覚えるの苦手って人もいるだろうしね。・・・はい、どーぞ」
俺は冷蔵庫から取り出した天然水のボトルをちゃんに手渡しながら、向かいのベッドに腰を下ろした。