第1章 1
「そんなにクマやばいかなぁ?」
俺は独り言を言いつつバスルームの鏡を覗いてみた。
そこにはクマを浮かべた42歳のおじさんがこちらを見ていた。
「可愛い...ねぇ....」
俺はクマを指でなぞりながら、ファンや周りから言われ続けるその言葉を口にしてみた。
どこがかわいいんだか....
首を傾げながら、おれはバスルームを後にして部屋の中へと足を進めた。
温泉旅館とは言え、畳の部屋にツインのベッドが二つ並ぶ、なんとなくミスマッチなその和洋折衷の部屋を見渡して、俺はダイブする様に片方のベッドに横になった。
体の下から毛布を引っ張り出し、体にかけ、頭を枕に埋めると、途端に眠気が襲ってくる。
いつもの癖で片腕を頭の下に入れ、目を閉じる。
心地よい眠りの淵に引き込まれていく感覚を楽しんでいると、あの子の笑顔が瞼の裏に浮かんでくる。
後で...何かきっかけを見つけてお話ししてみよう....
ぼんやりとそんなことを考えながら眠りに落ちた。
どのくらい寝てたのか。
物音がしたような気がして目が覚めた。
まだ重い瞼を擦りながら、物音がなんだったのか確かめようと頭を枕から浮かせる。
コンコンコン
小さく躊躇いがちなノックの音がして、俺ははっとベッドに起き上がった。
えーっと、今は撮影の最中で、共演者が到着するまでの待ち時間....
あ、到着したのかな?
ようやく思考がまとまり、俺は慌てて立ち上がるとドアへ向かった。