第1章 悪夢の始まり
くるり。
逃げようと再度両足に力を入れたところで。
「残念。時間切れ」
右腕が捕まって。
「ちょっと!!やだって!!」
ずるずると連れ込まれたのは、こんなとこあったのかと思うほどの古びた倉庫。
ガラガラガラーって重い扉を開けて、埃臭い匂いが鼻をついたのと。
どこかに放り投げられたのがほぼ、同時。
「ここ、前にどっかの運動部が倉庫として使ってたんだって。今は全然使われてないみたいなんだけど」
「…………なんでこんなとこ知ってんの」
「さぁなんででしょう」
またあの笑顔。
目が全然笑ってない。
こんな笑顔、威圧感しか感じないんだけど。
「…………なんで。だって別に構わないって」
「ああ、飲み会?いいよ、行ってきて」
「は?それで怒ってんじゃないの?」
「ああ、まぁ、怒っては、いる」
「はぁ?」
「そりゃ好きな子が飲み会に男漁りに行ったらフツー怒りたくもなるでしょ」
「好きな子って、誰がよ。」
「だから、楪だってば」
「だってあんた、好きにならないのがいいとか言ってたじゃん。それって好きとは言わなくない?」
「だって楪だって先輩に好きになってもらわなくてもいいでしょ?」
「あんたのとは違う。あんたのは、好きになって欲しくないみたいに聞こえる」
「ああ、まぁそうだね。あんまり合意のセックスに興奮しないし。絶対俺に靡かないのが彼女の条件なんだよね。楪みたいにさぁ」
「変態と付き合う趣味はない」
「あはは、好きだなぁ楪のその虚勢」
「虚勢………っ、て」
「だってだいぶ饒舌だよ?さっきから俺が何物色してんのか気になってんでしょ」
「…………」
「強がっちゃって、ほんと…………興奮させてくれるよね楪」