第1章 悪夢の始まり
「あ、羽衣、今日の飲み会どーする?王子の目の前でする話でもないけど、キャンセルだよね?」
「え、行く」
「行くの?」
「お酒大好き」
「………えーっと、王子?」
「楪が行きたいなら、いんじゃないかな?束縛する気ないし」
よくまぁすらすらと。
ケッ。
「ほらほら、お許し出たでた」
「そーお?」
「ふむふむ」
第一彼女じゃ、ないし。
「寛大ね、王子」
「そうでもないよ」
ゾクリ。
にこり、と目を細めて笑う一瞬。
あたしを見た。
ほんの一瞬。
目が合った………気がした。
「楪は、俺といるの嫌?」
「え」
な、何。
それ。
なんでいきなりしゅんとしちゃってんの。
まるで仔犬じゃん。
「迷惑?」
「…………どちらかと、いえば」
「ちょっと羽衣ー」
「そう。わかった。俺ひとりで浮ついて浮かれてて、ごめんね。もう付き纏わないから」
「…………」
「ちょ、ちょっと羽衣ってばー!!ねぇ」
隣で茉莉花が服を引っ張りながらぐんぐんと押す。
だって。
やっと諦めてくれたんじゃん。
あんな変態、好かれる方が迷惑。
…………まぁ。
お弁当は、美味しかった、けど。
「…………あーもう!!」
めんどくさ!!
考えるのも言い訳探すのもめんどくさ!!
あったまくる。
なんであたしがいい訳探さなきゃなんないんだよもう!!
「————ちょっと!!」
しかも足はやいし。
やっと捕まえて桜咲の裾を掴んで。
ぐ、て膝に力を入れた。
久々に走っちゃったじゃん。
歩くの、早すぎ…………。
「…………楪」
え。
なんで今、その笑顔。
肩で息するあたしを見下ろして。
王子が冷ややかに、笑った。
「ほんと、チョロいねあんた」
…………っ。
やば…………。