第1章 悪夢の始まり
「…………は?」
「あとはあんま女の子に手荒なことするのも気が引けるっつーか。下手したら通報されちゃっても困るし」
「…………」
あたしは手荒なことしていい女の子なわけ?
そして、犯罪な認識はあるんだ。
「その点楪なら問題ないじゃん?」
「むしろ問題しかあたしには見当たりませんが」
「だって」
「ッッ」
また。
この顔。
目を細めて。
顔つきがガラリとかわる。
のと。
壁ドンしていたはずのあたしが逆に壁ドンされる立場になるのが、ほぼ同時で。
至近距離まで、顔が近づいてくる。
「楪も気持ち良かったでしょ?」
「ば…………っ!!」
はぁ?
何言った今。
頭おかしいの?
「ああそっか。こんなとこ連れ込んで、また犯されたかった?」
「なわけないでしょ馬鹿なの?ちょ………っ、離れて!!」
「楪が『いい』ってゆーまでやだ」
「子供か!!」
両手をピンと伸ばして距離を取ろうとしても。
肩に右手が回されてまんまとこいつの、腕の中。
「…………き、聞いてたならわかるでしょ!!あたし好きな人、いるから!!」
「別に構わないけど?」
「は?」
「楪が絶対俺のこと好きにならないのがいーんじゃん」
「はぁ?」
「あんまり好意向けられんの好きじゃないんだ、勝手に幻想抱かれるのも」
こいつ。
やばいまじで。
モテすぎておかしくなってんじゃないの?
「上から目線で罵倒されたの初めてなんだよね。だからさ楪。もっと興奮させてよ」
「…………」
エムなのかエスなのか、はっきりしなさいよそこ。
「無理」
「なんで」
「あんなの毎回、あたし殺される」
あんな疲れるセックス、セフレにもなりやしない。
「悪いけど他当たって」
「悪いけど無理」
「な…………っ」
しまった。
油断した。
至近距離に桜咲の顔、あったのに。
両手囲われて、逃げ場ないのに。
油断した。
気付けば簡単に、唇が奪われてた。