第2章 星の雨と共に【占い師】
1日の仕事を終え、食事やら寝支度やらが一段落ついた頃。
私は食堂に訪れ、すっぴんで晩酌をしていた。
そう、すっぴん。まだぴちぴちな、20代前半の乙女が。
豪快に焼酎などを流し込まずに、ちびちびとちょっとお洒落なカクテルを飲んでいるだけマシだと思ってほしい。
ほら、隣にいる美智子なんて。
[はぁ〜!最高やなぁ!あ、ルルちゃんもどや?芋焼酎っていうんやけど、飲んでみいひん?]
まあ不思議。先ほど例に挙げた焼酎をぐびぐび豪快に飲んでいるではありませんか。
『みっちゃん、飲み過ぎてる!もう終わり!』
そう言って私は美智子の酒を取り上げる。私はまだ少しだから、と自分を棚に上げてしまうのは悪い癖だ。
しかし、流石に焼酎を3本も空けている人は止めなければならない。
[ああ〜、まだ飲ましてくれてもええやん!ルルちゃんもまだ飲んでるんやん?]
『これ以上飲んだら明日の試合に影響が出るでしょ、ほらさっさとお休み』
美智子の痛い言葉を無視して部屋に帰し、息をふうっと吐きながら席に着く。
「まるで母親だね」
声の主を辿ると、入口にもたれかかるクラークさんの姿があった。
立ち姿になおかしな点はなく、昼間のことが嘘のように元気だ。
『もしかして、見られてました…?』
ちょっとだけね、と微笑む彼は、いつもと少し違う印象を受けた。
「パーキンストンさんは何を?」
『ちょっとした物ですが、カクテルを』
「少しだけもらっても良いかい?興味があってね」
『どうぞ』
彼にそう言うと、先程まで私が飲んでいたグラスで一口。
私は酔っていて、クラークさんは少し眠くて、気が抜けていた。
俗に言う間接キス、ってやつをした訳だ。
気づいた2人に一瞬の沈黙が流れたが、すぐに通常の会話に戻る。
『…良い葡萄が手に入り、使ってみたのですがどうでしょうか』
「…ああ、とても美味しいよ、ありがとう」
少しだけ気まずい空気が漂う。
「私はこれで。おやすみなさい」
私も“おやすみなさい”と返すと、クラークさんは食堂を出て行った。
………
ドアを挟んで、相手に聞こえないように。
『「はぁ…」』
そうため息をついて、顔を林檎のように赤く染めていたのは、ナイチンゲールですらも知らないこと。