第14章 悪役令嬢
「許さない・・・絶対に許さない!!」
私を羽交い絞めし飛びかかりそうになっているのを引き留めているのはリューさんだ。相手も大層なご立腹で、扇子を振り上げ私を殴り付け様としている。
それを制止しているのは、相手の婚約者らしい。私にもこんな激しい感情があるのだとは知らなかった。
そもそもの原因は、リューさんとの町デート。お揃いのアクセサリーを買ったり、出店を覗いたりと本当にデートを満喫していたんだ。
そして疲れただろうと言って、あるスイーツのお店へと連れて来てくれたのだけど・・・先客として、男女の二人組がお茶をしていたんだ。
リューさんを目にするなり、悪態をついてきたのはカップルの令嬢の方。あの時の悪役令嬢を彷彿させる赤髪で目付きのキツイ令嬢。
リューさんは全然気にしていない様だし、令嬢の同伴者も令嬢を窘めている様子。でも、令嬢はそんな同伴者を無視してはリューさんに罵声を浴びせ続けて私がブチ切れた訳だ。
店の中は騒々しい私と令嬢の声で、カオス状態。
でも、リューさんは気にするなって言うけど、私はリューさんみたいに人格者じゃない。大事に思う人だったら猶更だ。
最後は泣きわめく私を収拾する為に取った行動は・・・私へのギャラリーの前でのキスだった。
「うん、泣き止んでくれて良かった。泣き顔は私の前だけにして欲しい。こんな可愛い顔、他の誰にも見せたくない。分かった?」
「う、うん・・・。ごめんなさい。」
「いいんだ。私の為に怒ってくれた事は嬉しいから。」
私をハグし、頭を撫でてくれる優しい手付き。でも、この時のリューさんの視線は氷の様に冷たくあの令嬢へと注がれていた。
私の背後から、令嬢の金切り声が聞こえてきたけれど、更に大きな声がそれを止めた。その大きな声の主は、令嬢の同伴者のものだった。
「もうたくさんだっ!!お前みたいな性悪な女、頼まれてもお断りだ。婚約は破棄させて貰う。これ以上殿下の側近に罵声を浴びせるつもりなら、家の没落を覚悟してやるんだな。俺はお前みたいな女と共倒れになるのは御免だ。」
鼻息荒く店から出て行ってしまったらしい令息。令嬢は驚いた顔をしていたが、直ぐに後を追って出て行った。
私はお店の人に謝罪をしては、お菓子を購入依頼だけして引き上げることにした。店前では、さっきの二人が言い争っていた。