第12章 薬と恋、時々拉致
先日の薬を調合する時のこと。珍しく何か手伝いたいと言って来たアンドリューさん。お世話になっている上、お手伝いまでなんてと断わったのだけど興味があると言ったのでお願いすることにした。
あれから、蜂さんたちとは良い関係を築けている。元婚約者とのことは私の中で清算されたし、後はあのジンのこと。アンドリューさんから、私を迎えに来るという話しを聞いて辟易していた。
黒髪に色素が薄い茶色の瞳をしているアンドリューさんは、日本人に少し似ていて一緒にいて安心する。美形はこの世界にたくさんいるので、そう緊張もしなくなった。慣れとは怖い。
ルカさんもノアさんも、アンドリューさんを怖い部分を持ち合わせている人だと言うけれど私には過保護で親切で笑顔をよく見せてくれる。
私が薬草を煮詰めている間、隣りで追加する薬草をすり潰してくれているアンドリューさん。
「そろそろいい頃ですね。この鍋に入れて貰っていいですか?」
「分かりました。」
そう言えば、ずっとアンドリューさんは最初から敬語だ。もっと砕けてくれてもいいのにと思う。
「アンドリューさん、立場上難しいのかもしれませんけど、もっと砕けた話し方でもいいと思うのですが・・・。」
好きだと言われてからも、アンドリューさんは何ら変わらない。グイグイ詰め寄られることもない。
「えっ?あ、それは・・・。」
「アンドリューさんと、仲良くなりたいな・・・なんて、厚かましいですか?」
ポカンとしたアンドリューさんの手元から、一気に鍋の中にすり潰された薬草が落ちた。その事によって鍋の中で煮たたっている薬草汁が飛び跳ね私の手に当たった。
「熱っ!!」
「も、申し訳ございません!!直ぐに冷水をっ。」
普段ならこんな風に焦る人ではない。でも、魔法で出した冷水は思いの外威力が強く・・・頭からずぶ濡れになった私。
直ぐに温かいお風呂を用意してくれて、私は風邪などひくことはなかったのだけど。その後のアンドリューさんの落ち込み様とくれば・・・。
こちらが可哀想だと思ってしまうほどの落胆ぶりで。長身の身体を小さくさせて、しょぼくれているアンドリューさん。私は苦笑いしながら、そんなアンドリューさんの頭を撫でた。
「そんなに落ち込まないでください。私は大丈夫ですから。」
そう声を掛ければ、顔を上げたアンドリューさん。