第3章 川沿いの町で
ジュピターから旅立って三日目。街道を抜けて到着したのは、大きな川。騎士団が駐在する場所で、比較的安全な場所でもある。
「お爺ちゃん、ここで休憩するの?」
お爺ちゃんの名前はコリスさん。可愛い名前である。最初は名前で呼ぼうとしたのだけど、身内だと思わせる方が安全だと言って、お爺ちゃん呼びになった。
私の身分証はイリル団長の奥さんを助けた事によって、保証されることになった。どうやら、奥さんはいいところの貴族の令嬢だったらしい。
そんな訳で、転生者の私にも身分証はある訳で・・・でも、今はお爺ちゃんの商売の付き添いとして各地を回っていることになっている。
「そうじゃよ。少し近くを散歩して来てもいいぞい。」
「うん、分かった。」
「あんまり遠くには行くなよ。」
間延びした返事をし、私は川へと近づいて行った。川の水の中を覗き込んでいると、背後から声を掛けられた。振り向くと、身形はキチンとしているものの胡散臭い二人組の男性。
「こんな場所で何しているんだい?」
「休憩です。」
「そうかい。何処に向かっているんだい?」
「どうしてそんな事を聞くのです?」
ニヤニヤしつつも、私との距離を詰めて来る二人組。私の後方は川だ。逃げ場はない。そんな時声を更に掛けて来たのは、駐在している騎士団の人だった。
「あ、やっぱり、エイリンじゃないか。」
「ホークスさん!?どうしてここに?」
「物資の供給だよ。エイリンは?」
気付けば、二人組はいなくなっていた。その事に安堵しつつ、私は見知った騎士団員に事情を説明した。
「そうか、そんな事があったのか。やっぱり、もっと強く交際を反対しとくべきだったな。」
「イリル団長にも同じ事を言われました。」
「団長は、エイリンのことを実の娘の様に思ってたからな。それに、奥方の命の恩人でもある。ついでに言うと、俺の恩人でもあるんだ。」
神妙な顔のホークスさん。
「と言うと?」
「団長の薬を貰ったのは、ウチの子供の為だったんだ。息子が今元気なのは、団長とエイリンのおかげだ。エイリンの薬が無ければ、俺はずっと団長に顔向け出来なかった。」
「そうでしたか。でも、今はお互いに健康ですからいいじゃですか。そうだ、これ。」
私は二本の薬をホークスさんに手渡した。
「もしもの為に、こっそり保管しておいてください。最後の餞別です。」