第2章 逃げ出した婚約者
俺は頭を鈍器で殴られた気分になった。
「どうしてそんな酷いことを言うの?」
「さっき支払った金は、ウチの売り上げの一週間分のものだ。お前は、ウチを破産させたいのか?」
「一週間?でも、父さんは支払ってくれたじゃないか。」
「手切れ金だ。もう、お前はワシの息子ではない。店は、弟に継がせる。このまま出て行け。」
冷たく言い捨てられ、俺はその場に立ち尽くすしか出来なかった。どうして、こんなことになったのだろう?
それにしてもたった一泊であの請求金額。一体、何をすればあんな金額になるのか。
「宿屋で何をしたの?」
「この町で一番だって言うのに大した事ないから、良い物を手配させただけよ。この私が泊ってあげるのだからそれくらいさせるのは当たり前だわ。」
それで、店の売り上げの一週間分使ったって・・・。
「君さ、家に帰ったら?この町にいても、君を満足させられないと思うよ。家に帰れば贅沢出来るんだよね?」
「それはダメよ。それに、貴方が私を拾ったのよ?だったら、最後まで面倒みなさいよ。」
「どうしてこんなことに・・・。」
俺は溜め息を吐くと、女性はこう言った。
「あの逃げた婚約者のせいじゃない?あの女のせいで、こんなことになったのよ。」
「えっ?エイリンのせい?」
「そうよ。あの女が貴方の言う通りにしていたら、こんなことになっていなかったわよ。どうせ、町を出てそう経っていないのよね。だったら、追い掛けて連れ戻せば勘当も解かれるわ。あの女から貴方の親に謝罪させれば言うこと聞くわよ。」
「そうか、そうかもしれない。俺のお願いを聞かなかったエイリンが悪いんだ。分かった、直ぐに追いかけよう。」
ニヤリと笑う女性に気付きもせず、俺は町で情報を集めて馬車でエイリンの後を追うことにした。
この時の俺は、直ぐにエイリンを連れ戻せば何もかも上手くいくと思っていた。最後に幾ばくかの金銭を渡されていたから、何の躊躇もなくエイリンが向かった町へと旅立つことにしたのだった。