第19章 欲しいもの
後で聞いた話しでは、コリス家はお取り潰しで一族も表には出られなくなったらしい。重労働を課せられた者、捕縛され牢獄で一生を終える者、厳しい修道院へ連行された者など多種多様。
そんな中、リューさんが自ら出向いて葬った者もいた。容赦ない行動から、リューさんを黒い悪魔と呼ばれる様になったそうだ。しかし、その行動を私が知ることは無い。
私は私の居場所を作る事が出来て、毎日を楽しく過ごせている。この先も、こんな風に穏やかに薬師として暮らしていけるだけで私は充分だ。
勿論、そんな私の隣りにはリューさんの存在無くては成り立たない。普段はとても凛々しくて素敵な旦那様だが、薬師のお手伝いをしてくれ何か粗相があると激しく落ち込むところも愛らしい。
この生活を守る為なら、私は何だってやれると思うしやるつもりだ。ただ、あの出会った神様ともう一度だけ会いたかった。それだけが心残りだ。一回ぶっ飛ばす・・・それを胸に刻みながら、今日も薬師として私は採取もし薬作りにも精を出す。
「なぁ・・・それって、あの媚薬なのか?」
呆れた顔で私が作る粉を見ているのはルカさん。確かに、効能は高いし高評価も頂けている。
「いっそ、薬師改め媚薬師でいいんじゃないか?」
「改めなくていいですから。それに、これで暫くは媚薬作りはお休みします。」
薬師見習い四人は正式に、私の門下生になった。慕ってくれるのは嬉しいし、素直で可愛いから大事に育てようと思っている。
「エイリン、戻った。」
「リューさん、お帰りなさい。」
「今日は面白い事があった。」
リューさんが聞かせてくれた話しは、出回った媚薬の事だった。あ、何か思い出し笑いなのか、笑っている。珍しい。
「婚約者に襲われたらしい。」
「えっ?だ、誰がですか?」
「ノーチェ様だ。乙女の様に恥じらうノーチェ様と、勇ましい婚約者。本当に面白い状況だった。どうせ、来年は結婚するのだから、問題はないだろう。ただ・・・子が先に出来なければいいのだがな。」
って、リューさんはまだ笑っている。
「ノーチェ様・・・ひょっとして、受け入れたのですか?」
「ずっと羨んでいたんだ。受け入れない選択肢はない。満足そうな顔をしていた。」
・・・そうか、満足そうな顔。まぁ、いいのか?