第17章 羽虫一族
「私と、国を出るか?」
エイリンは目を丸くしてから、笑った。
「私・・・腹が立って、言い返してしまったんです。リューさんは、私を選ぶって。不敬だけど、リューさんが同じ様に思ってくれていて嬉しい。ノーチェ様、きっと私にヤキモチ妬いちゃいますね。」
「事実だから妬くなら妬かせておけばいい。」
赤くなった目のままだったが、どうやら気持ちは落ち着いたらしい。そんなエイリンを抱き留め、あちこちにキスを落とす。
「ノーチェ様のことは、許さなくていい。私からも、苦言を申しておこう。」
「もういいんです。たくさん怒って泣いて、リューさんは相変わらずで・・・もう気にしていないです。」
正直に言って、私は許せないのだが。あんなにエイリンを悲しませたんだ。許せる筈がない。
「お仕事は終わったのですか?」
「あぁ、問題なく。後は、その貴族くらいか。拉致ろうとしたのだろう?」
「ルカさんが助けてくれましたし、私も引っ掻いたりしました。今度は・・・。」
「次は無い。」
きっと、今の私は無表情だったのだろう。どんな報復をしようかしか、頭にはなかったのだから。
「あ、それと・・・。」
「どうした?何か心配事か?」
「えっと・・・その、つい、ついなんですけど・・・大切なところをルカさんに渡された棒で・・・泡吹いて倒れちゃったんで吃驚したんです。どうしよう・・・使い物にならなくなっていたら。」
心配そうな顔で私を見上げるエイリン。しかし、私は思わず笑ってしまった。
「確かに、それは痛かっただろうな・・・そうか、泡を吹いたのか。だが、よくやった。」
羽虫は対峙し、ひとときの穏やかな時間。
しかし、耳にした令嬢たちが諦めることはなかった。前回と異なること。エイリンに泡を蒸かされた男は、二度と令嬢の言うことを聞かなくなったらしい。
そして、もう一つ。今日の街の散策は・・・私とのデート。
エイリンを甘やかし、大切に扱った。唯一、私が心を寄せる命より大事な宝物。誰にも傷付けさせたくなどない。
だから、街中でもエイリンが恥ずかしくなるほど構い倒し、エイリンの笑顔を堪能した。でも、そこへ現れたのは・・・令嬢ご一行だった。