第2章 可愛さ余り過ぎると、憎さなくなる?
寮に着いても、三途君はまだ手を離してはくれなくて、私は不思議に思って三途君を見る。
彼の目が、戸惑いに揺れている気がして、覗き込む。
「っ!?」
目が合うと、突然顔を真っ赤にして目を逸らし、身体を仰け反らせる。
「どうしたの? 三途君、何か変だよ?」
「う、うるせぇっ……」
悪態を吐くけど、今までみたいな冷たさや、嫌悪みたいなものは感じない。
本当に突然どうしちゃったんだろう。
「三途君、離してくれないと帰れないよ?」
手だけは離さない三途君に言うと、そっぽを向いたまま小さく呟いた。
「……春千夜……」
「え? うん、知ってるよ?」
「春千夜って呼べって言ってんだよっ……後、別にマイキーと仲良くするのも、特別に許してやるっ!」
名前はいいとして、万次郎と仲良くする事に、何故三途君の許可がいるのか。
けど、まさかそんな事を言われるなんて思ってなかったから、三途君に何の心境の変化があったのだろう。
突然の変わり様に驚きながら、離された手を見る。
「さ、さっさと入れよっ……」
「三途君は、帰らないの?」
眉がピクリと動き、眉間に皺が寄る。
「春千夜だっ、春千夜っ! 言えっ!」
勢いよく近づいて来て言われ、圧倒される。
怒っているのかと思ったけど、頬と耳が赤いのが見えて、そうじゃないのだと知って笑う。
「ぷっ……ふふっ、分かったよ。またね、春千夜」
小さく手を振り、そう言うと「ふんっ、最初から素直に言え」とまたそっぽを向いてしまった。
動く気配のない春千夜に背を向けて、私は寮に帰る。
自室に戻り、玄関が見える窓に移動すると、まだそこには春千夜がいて、見上げている目と視線がぶつかる。
ぎょっとする春千夜に、おやすみと手を振るとふいっとされてしまった。
大股でズカズカと歩いて行ってしまった彼の背中を見ながら、私はまた笑った。
彼は結構照れ屋なのだろうか。
案外可愛いところもあるのだと、微笑ましくなった。
翌日から、いつもと違う事が起こり始める。
「ー、卵焼きくれー」
「はいはい、どーぞ」
「、俺、そっちの欲しい」
「……ん? あ、どーぞ」
生徒会室が溜まり場になりつつある今日この頃。