第4章 それでも傍に
最近春千夜の表情だけで、少しだけど言いたい事が分かって来た気がする。
「ちゃんと春千夜にも感謝してるよ。痛い思いしてまで、私の代わりに怒ってくれたから」
立ち止まり、私は繋いでいない方の春千夜の手も取って向き合う。
「殴られるだけじゃなくて、人を殴るのも痛いはずだし。本当は私なんかの為に痛い思いもして欲しくないし、危ない目にもあって欲しくない」
「何で?」
「え……?」
黙っていた春千夜が、小さく呟く。
「俺が怪我しようが、痛い思いしようが、お前が気にする事じゃねぇだろ」
「まぁ……それはそう、かも、だけど……でもっ……」
「それはどの立場から言ってんだ? 好意か? 違うだろ」
正直、春千夜は大切な友人なのは確かだけど、万次郎達とは少し感覚が違う。それを恋愛感情かと聞かれたら分からない。
単に、恋愛経験がないのも大きい。
「俺はお前とお友達になりたいわけじゃねぇ」
そんな事は分かってる。春千夜の気持ちは散々聞いたし。
私だって、自ら危険な場所に飛び込んで、体を張ってまで私を守って助けてくれたのは凄く嬉しいし、彼を好きになれるならそうしたい。
けど、そんな単純な事なのだろうか。
考えていると、いつの間にか部屋に着いてしまっていた。
「さっさと部屋入れ」
はっきりしない私の傍にい続ける彼に、私は何を返せるのだろう。
人を好きになるって、どういう事なんだろう。
「春千夜、私ね、父と愛人との間に出来た子供なの」
「あ? 急に何だよ」
「育ての母親に殺されそうになった」
不思議そうにする春千夜を気にする事なく、私は続ける。
「助けて、守って、今まで育ててくれたのは、兄だった」
「そいつが好きなのかよ」
「兄の事は、尊敬してるし感謝してるし、大好きよ。でも、春千夜が思ってる好きとは違うよ。兄からの愛情しか知らない私には、まだ恋愛感情がよく分からないの」
私が思う全てを話したら、彼はどう思うのか。
「万次郎もドラケンも場地も千冬君も、みんな大好きだし大切な友達だと思ってる。けど、春千夜はそういうのともちょっと違ってて……自分でもよく分からない……」
傍にいると安心もするし、少しドキドキもする。