第3章 狂犬は彼女の全てを喰らいたい
必死に止める私の言葉に、険しい顔で答える。
「あぁ? こんなくだらねぇ事する腕なんて、必要ねぇだろ」
迫力のある目に一瞬怯みそうになるけど、それでも春千夜にそんな事はして欲しくなくて。
「やめてっ! いい加減怒るよっ!」
先程より強く、大きな声で言うと、驚いたような顔で春千夜が手を離す。
逃げるように男達がいなくなり、安堵する。
「お、怒ったのかよ……」
「……怒ってないよ。でも、あんまり危ない事はしないで」
私より大きな彼が、落ち込む姿は妙に小さく感じた。また叱られた子供みたいな状態になる。
私は無意識に春千夜の頭を撫でた。
「な、何だよっ……ガキ扱いすんなっ……」
悪態を吐くけれど、言葉とは裏腹に特に嫌がる事はしないから、満更でもないみたいだ。
怖かったり可愛かったり、誰にでも噛み付く危なっかしい困った人。
どうしてだか、気になって構わずにはいられない。
でも、恋愛感情はまだ生まれそうにない。
だけど、そんな私の感情が大きく動く事件が起きる事となる。
その日、生徒会の仕事が終わったのが遅くて、会長と同じ方向に帰る為、会長が送ってくれると言うので甘える事にした。
「毎回すまない。まさかこんな遅くなるなんて」
「仕方ないですよ。それに、忙しいのは会長のせいじゃないですし」
言うと、申し訳なさそうに会長は苦笑する。
「おいおい、ガキがイチャイチャしてんじゃねぇよ」
「あれ? 俺この女に見覚えあるわ」
数人の男達の中に、私も見覚えのある人を見つけた。
公園で春千夜を女の子と間違えて、声を掛けてきた人の一人だった。
「今日はあの女みたいな男と一緒じゃねぇの? 違う男と一緒とか……もしかして、君ビッチとか?」
「へぇー、じゃぁ、俺等の相手もしてよー」
一人が私の肩を抱いた。その腕から逃れるように、男達から距離を取る。
「申し訳ないが、彼女に手を出すのはやめてもらいたい」
「あ? 真面目君が女の前だからって、格好付けちゃってんの?」
私を守るように前に立った会長の胸ぐらを、男が掴んだ。
「いい加減やめてっ!」
私の言葉は意味がなく、会長が殴られて倒れる。
「会長っ! ちょっ……ゃ、離してっ!」
「ビッチちゃんはこっちねー」