第1章 狂犬の嫌いなあの子
そして、凄く睨まれているような気がした。
目が合ったから少し頭を下げると、一瞬眉を寄せてフイッと目を逸らして無視されてしまった。
どうやら嫌われてしまったようだ。何もしてないんだけどなぁ、と考えながらまた喧嘩をしている方に視線を戻す。
あっという間にナンパ男達は、仲間と共に地に伏していた。
「へー……二人強いんだねぇ。あ、助けてくれて、ありがとうございました」
二人に頭を下げてお礼を言う。
「あんまこの辺ウロウロすんなよ。特にこの辺はあーいう奴等が多いんだしよ」
「帰り道なんだけど……確かに毎回こんな事ばっかりじゃ困るし……大人しく言う事聞いて、そうします」
三つ編みの彼、龍宮寺堅とその友人である飛び蹴りをした佐野万次郎。そして、離れた場所から動かない、三途春千夜。
同じ学校で尚且つ、同じ学年だと知る。
これが彼らとの出会いである。
「ケンチン……腹減ったぁ……」
佐野君が困ったような顔で、龍宮寺君に弱々しい声を投げた。
カバンを漁るけど、いい物がなくてたまたま入っていた飴玉を差し出す。
「今度改めてお礼するから、とりあえず今はこれで我慢してもらえる?」
「おおーっ! お前いい奴じゃんっ! あんがとなー」
飴一つでこんなに喜んで、いい奴認定してくれるなんて、佐野君の方がいい人じゃんと思った。
そこからよく話すようになり、呼び方も佐野君、龍宮寺君から万次郎、ドラケンに変わる。
ただ、三途君に関しては、万次郎の言葉一つで春千夜と呼ぶ事になったけど、本人は多分納得していないだろうから、万次郎がいない時は、三途君と呼ぶようにしている。
私は生徒会書記をしていて、生徒会室で作業をしている時は、大体マイペースが服を着て歩いているような我が道をゆく万次郎が現れて、ドラケンが来るまでソファーで眠るというのが日常だ。
会長も諦めているようで、好きにさせてくれている。
万次郎は学校で取り扱い説明書が回るくらいには、かなり要注意人物とされているらしいから、触らぬ神に何とやらだ。
私から見たら、いつも駄々を捏ねては、ドラケンや色んな人を振り回している、まるで子供みたいな人物だけど。
二人がいなくなって、静かな生徒会室で作業の続きをしていると、扉がノックされる。