第1章 狂犬の嫌いなあの子
私には日課がある。
「万次郎ー、ほら、起きて。ドラケン迎えに来たよー」
ふわふわの髪を撫でて、ソファーで眠っている男の肩を揺する。
「んんー……えぇー、もうんな時間かよぉ……早くね?」
「おら、マイキーさっさと起きろ、置いてくぞ」
不良の多いこの学校の中でも、かなり上位の強さを誇り、カリスマと呼ばれているらしい男、マイキーこと佐野万次郎と、その友人であるドラケンこと龍宮寺堅。
この二人と出会ったのは、一年の夏だった。
学校から帰っていた私は、四人組のナンパ男達に絡まれていた。
鬱陶しいなと思いながら、正直ナンパはよくある事なので適当に無視していたら、物凄くしつこくて、あしらっても意味がなくてウンザリしていた。
「おい、ウチの生徒に何ウザ絡みしてんだ」
声のする方を見ると、長身の男がいた。
印象的だったのは、後頭部から後ろに短めの三つ編みを垂らし、左側の頭にタトゥーを入れている見た目だった。
なかなかのイケメンだなぁと考えながら、奇抜な頭をしている事と、不良という人種が身近な存在な為、特に驚く事も怖いというのもなく、ただ彼を見ていた。
絡む相手をその彼に変えたナンパ男達の一人が、電話をしたのをきっかけに、人数は十人以上に増えてしまった。
流石にこの人数はと思っていると、突然一人の男が吹き飛んだ。
驚きのあまり、目を見開いて瞬きしか出来ない私の前に、飛び蹴りをしたであろう、男が私の前に着地した。
「ん? 何でここに女?」
「あー……こんにちは?」
ばっちり目が合ってしまって、つい挨拶をしてしまった私を、その彼は凄くじーっと見て来る。
「うん、こんにちはー。つか、端寄ってねぇと危ねぇぞ」
言ってニカッと笑う彼は、再び男達の方へ走って行く。
喧嘩を端の方で見ているけど、二人が凄く強いのが分かる。
ただ少し気になった事がある。
今さっき気づいたけど、少し離れた場所でずっと立っている子がいる。
明るい色に染められた長い髪、同じ色の凛々しい眉に離れていても分かる長い睫毛。
その下に見える目は、凄く冷めていて鋭い。
マスクをしているから、どんな表情をしているのかは分からない。
最初はどちらかの彼女かと思っていたけど、よく見たら男の子のようだ。