第3章 狂犬は彼女の全てを喰らいたい
ガラス越しに送られる視線が、物凄い圧がある。
マスクをしているせいか、凄い目力だ。
「めっちゃ、見てんな」
「目だけで人殺る勢いっスね……」
場地と千冬君が呟く中、春千夜が私を見るけど視線を多少ズラしてから、体をビクリとさせる。
万次郎のせいだろう。春千夜をジッと見つめている。春千夜にしてみれば、万次郎の視線は恐ろしいのだろう。
「ほ、ほら万次郎、まだ何もしてないんだし、あんまり春千夜をビビらせないであげて」
苦笑しながら私が万次郎を宥めると、万次郎はまたお子様セットに戻る。
「そう言えば、何で春千夜は別行動なの?」
「あぁ、マイキーに絡んで来た奴等を潰すって息巻いてたから、任せたんだよ」
改めて春千夜を見て、私は気になって立ち上がる。
ドラケンに退いてもらい、店を出ようとして皆に止められるけど、放って置く訳にはいかない。
春千夜に走り寄る。
「んだよ……俺から逃げてんじゃねぇの?」
「うーん、そのいい方悪いなぁ。私は貞操を守ってんの」
そっぽを向いてイジける春千夜が、少し嬉しそうにしたのは私の見間違いではなさそうだ。
そんなに喜ばれると悪い気がしないし、逃げてる私が悪い事をしているみたいな気になる。
「ちょっと待ってて」
私は店に戻り、カバンを手にする。
「二人になって平気か?」
ドラケンが言う。
「まぁ、その時はとりあえず暴れてみるよ。いくら春千夜でも、そんなに酷い事はしないだろうし」
「本人に自覚ないにしても、三途の愛は重てぇし危ねぇけど、何だかんだ大事にするタイプだろうしな」
場地は相変わらず楽しそうだ。
「何かあったら呼んで下さいっ! 俺すっ飛んでくんでっ!」
「はは、千冬君ありがとね」
「またなー」
万次郎は止める事なく、春千夜の元へ一人で行く私を笑顔で見送ってくれる辺り、春千夜を信頼しているんだろう。
みんなに別れを告げて、大人しく待つ春千夜の元へ向かう。
「お待たせ。ほら、行くよ」
「いいのかよ」
「何が?」
「俺と二人になったら、貞操危ねぇんだろ?」
「うん、めちゃくちゃ危ないね。でも、怪我してる春千夜を放って置くのは無理だから」
コンビニに寄って、近くの公園のベンチに座る。