第3章 狂犬は彼女の全てを喰らいたい
私が頷くと、春千夜は満足そうに笑い、触れるだけのキスをする。
「ちょ……春千夜さん、あのね……付き合う前から、こういうスキンシップはどうかと思うんですがね……」
「あ? 知らねぇな……俺はどんな手を使っても、お前を手に入れる。楽しみにしてろ」
目が本気だ。笑っているのに、目が笑ってない。
これはマズいのではないだろうか。
「じゃぁ、私全力で貞操守んなきゃだね」
「まぁ、出来るもんなら頑張んな」
余裕な顔してニヤリとした春千夜は、私の頭をくしゃりとしてまた触れるだけのキスをした。
不意打ちにも慣れないと、彼から逃げるのは難しいみたいだ。
そして私は、あまりよくない頭で考えた。
「お前にしては、賢いな」
「ねぇ、それ本当に思ってる? めちゃくちゃ棒読みだけど」
ファミレスで、奥の席に座ってお子様セットを食べる万次郎の隣に座り、私を挟むように座るドラケンに不満を漏らす。
「無闇に逃げ回って墓穴掘るより、マイキーの傍にいりゃ、三途もそう簡単には手ぇ出せねぇだろうから、三途対策には一番の策だろ」
「お前は俺のダチだかんな。ねぇだろうけど万が一にも、春千夜を好きになったっつーんならいいけど、そうじゃねぇならの貞操は守ってやるよ。ねぇだろうけど」
エビフライを頬張りながら、万次郎はニコニコしてそう言った。
ないのを凄く強調してるのは、聞かなかった事にしよう。春千夜が何か可哀想になって来るから。
万次郎にパフェをお裾分けして、お礼を言う。
「しかし、あの三途が女にねぇ……想像出来ねぇな」
前に座っている場地が天井を見上げながら、ははっと笑う。
「そもそもさんと、ってのもあんま想像出来ないっスね」
場地の隣で千冬君が唸る。
そんなに私と春千夜のセットは想像つかないものだろうか。
個人的には逃げているのは、あくまでも貞操を守る為であって、別に春千夜を嫌っているからとか、迷惑だからだとかいった理由ではない。
「しっかし、お前も大変だな。よりによって、三途に目ぇ付けられるとは、災難だよなぁ」
場地が無駄に楽しそうに言う。
こういう時に、場地が一番楽しそうにするなと思っていると、綺麗な髪を靡かせて春千夜が現れる。
窓の外に。