第3章 狂犬は彼女の全てを喰らいたい
最近、春千夜のスキンシップが激しい気がする。
キス事件からこっち、やたら優しいし、至る所にいる。
只今、生徒会室で作業中。
「さん……凄く圧を感じるんだけど……僕は彼に何か恨まれるような事をしたのだろうか……」
「いや、会長は何も悪くありませんから。ちゃんと言って聞かせますんで、お気になさらず。私のせいで、ご迷惑掛けてしまって、申し訳ないです……」
人の良さそうな無害な見た目通りの、黒縁メガネを掛けた会長が、頼りなさ気な声で怯えたように私の隣で震えている。
若干涙目で体中から圧を放つ人物を見て、私の影に隠れて小さく「ひぃっ!」と悲鳴を上げる。
「春千夜さぁ、会長を威嚇する為にいるなら、可哀想だから出てってくれる?」
「別に威嚇なんかしてねぇよ。そいつが勝手にビビってるだけだろ。つか、近ぇよ」
会長の隣に立って仕事をしている私の腕を引き、会長から引き離す。
「会長には、万次郎もお世話になってるんだから、睨まないの」
ほんとにどうしてこうなったのか。最初の頃の春千夜の影が全くない。
これはそろそろハッキリしないといけない気がする。
会長は仕事を終えて先に部屋を出て行った。
「ねぇ、春千夜。ちょっと聞いてもいい?」
「あ? 何?」
ソファーにふんぞり返って、春千夜の綺麗な顔がこちらを向く。
私の口から出る言葉は、予測でしかない。自惚れだと言われたら、返す言葉もない。
でも、結構自信はあったりする。
春千夜の前に立つ。
いつも私より上に目線があるから、私が見下ろすのはこれが初めてだ。
「間違ってたら、ごめんね。もしかして春千夜って、私の事好きなの?」
私の言葉に、驚いた顔をする春千夜。
「あれ? 違った?」
座っている春千夜の顔に近づくように、腰を曲げて顔を覗き込む。
「うわぁ……顔真っ赤だ」
「……テメェ……っざけんなよっ……」
「あー、好きな子にそんな口聞いたら嫌われちゃうんだぞ」
顔を茹でダコみたいに真っ赤にした瞬間、予感は的中したと思った。
私がからかう言葉に、凄むように睨むけど全く迫力はなくて、可愛く見えてしまう。
隣に座って春千夜の方に体ごと向いて、しっかり目を見る。
「ていうかさ、そんな瞬間何処にあった?」