第2章 可愛さ余り過ぎると、憎さなくなる?
私は今何故、恋人でもない男とのキスを、大勢の前で披露しているんだろうか。
明日から、どんな顔で学校に来たらいいんだろう。
器用に口内を暴れ回る舌に、ただ翻弄されるしかない。
苦しさと羞恥に涙が滲む。
暫くして、唇がゆっくり離れる。
やっと解放されたと思った私の体が、ふわりと浮いた。抱き上げるならまだしも、肩に担がれた。
まさか、担ぐなんて信じられない。
力が上手く入らない私のスカートのお尻部分を、器用に押さえながら担いでいる。
そのまま連行される私は、大人しく時間が過ぎるのを待つ事が最善だと悟った。
人気のない中庭に連れて来られ、ベンチに座った春千夜の膝に横向きに座らされた。
何でこの体勢なんだろう。
色々疑問もあるし、言いたい事もあるのに、言葉が出ない。
「……怒ってんのか?」
「っ……」
「おい、何か言えって……」
黙ったまま、俯いていた。何か言おうとすると、羞恥と怒りでいっぱいな今、絶対にいらない事をぶつけてしまうし、泣いてしまうから。
なかなか引かない春千夜が、私の両頬を手で包んで上を向かせる。
春千夜の綺麗な顔が、涙で滲む目に映る。
「っ……泣く程っ、嫌だったのかよっ……」
「ひっ……ぅっ……ほんとっ、信じらんないっ! 何でっ、あんなっ……みんなの前でっ、あんなのっ、嫌じゃないわけ、ないでしょっ! バカっ!」
一度口を開いてしまえば、もう止まらなくて。
春千夜の胸を叩いて抗議する。
「っ……嘘、吐くにしたって、他に色々あったでしょっ!? 突然っ……何でっ、キス、なんかっ……」
「怒んなよ……お、おいっ、泣くなって……悪かった……ごめんっ……」
素直に謝る春千夜が珍しくて、こんなに素直になられると、怒れなくなる。
涙を唇で拭って、顔中に優しいキスをして、春千夜は「ごめん」を繰り返し囁く。
その声は、今まで聞いた事がない程に優しい。
拍子抜けしてしまい、涙も止まって落ち着いてくると、今度は違う恥ずかしさがやってくる。
顔に熱が集まり、顔を隠すみたいに春千夜から顔を逸らした。
「許してくれよ……なぁ、どうしたら許してくれんの?」
頼りなさ気な声が聞こえる。
それが、まるで親に叱られた子供みたいだった。