第2章 可愛さ余り過ぎると、憎さなくなる?
私の言葉に、春千夜が目を開いてパチパチと瞬きをする。
「春千夜にはそういう女の子っていないの? 万次郎一筋?」
「あぁ? マイキーはそういう対象じゃねぇ! 変な事言うんじゃっ……」
「春千夜、うっせー」
万次郎に言われ、少しビクッとした春千夜が可愛くて、笑ってしまう。
「笑ってんじゃねぇよ……」
「ふふ、ごめん。本当に万次郎大好きなんだね。あ、でもこれじゃ、彼女より万次郎を優先しちゃうのでは?」
「そ、れはっ……状況にも、寄るっ、気が……しない……でもない……」
難しい顔で悩む春千夜が可愛くて、つい頭に触れてしまう。
けど、春千夜は特に反応する事はなく、されるがままに撫でられている。
本当にどうしてしまったんだろう。前までは、こんな事した日には、それこそ彼がよく言う死体(スクラップ)だ。
どんな心境の変化なんだ。
「うわぁ……春千夜の髪サラッサラー」
「お前のが、綺麗だろ」
そう言って、私の髪に手を伸ばす。
兄以外に撫でられるのは、もしかしたら初めてかもしれない。
うん、悪くない。
向き合って、お互いの髪を撫で合うという、意味の分からない状況に、横から声が掛かる。
「何やってんだ、お前等」
「あ、そういえば、場地も髪綺麗だよね? 何か特別なもの使ってるの? こだわりとか?」
「あ? 何もしてねぇよ。石鹸だけだ」
石鹸だけであんなに綺麗な髪になるものなのか。多分彼の場合は、生まれつきの髪質なんだろう。
「わっ……場地の髪サラサラだし、ふわふわで柔らかい……」
「そうか? 普通だろ」
場地の髪に指を滑らせると、滑らかに指が通る。
「何か、女としてもっと頑張らないとって思うわ……」
「今ですら男引き寄せてんのに、それ以上女磨いたら、もうまさに男ホイホイだな」
場地がニヤニヤしながら、変なネーミングを付けてくる。
「そんな引き寄せてるつもりないんだけども……」
もちろん、昔からモテないとは言わない。そのせいで、色々トラブルもあったし、それなりに辛い事も、理不尽な事だってあった。
ただ、私に余裕とか、暇がなかっただけで、欲しいわけじゃないけど、いまだに彼氏もいなくて、経験もない。
恋愛は、あまりよく分からない。
人を好きになれるのかも疑問だ。