第1章 それは追体験できる魔法書
「ふふっ。いきなり言われても混乱するわよね。ちゃんと説明するわ」
女の説明によると、この本は複数の女性の恋愛体験談や、妄想が詰め込まれ、オムニバス的な小説になっているらしい。
どれも定番シチュエーションを扱っているとのこと。
そして、読み手の女性はそのストーリーのヒロインとなって、小説の内容と同じ体験ができるというのだ。
「恋愛…ということは。私は知らない人になって、知らない人と恋愛をする…体験ができる魔法書?」
「ええ、そうよ。あまりにもリアルなため、夢か現実かわからなくなる。それがこの本よ」
そんな馬鹿な。
いくら魔法書とはいえ、無理な設定がある気がする。
「信じてないって顔ね」
そう言って女は表紙をめくる。
最初のページは目次だ。
『パン屋の娘×幼馴染(貴族)』
そう書かれているのは読み取れたが、それ以降は文字が滲んでいるようで、何が書いてあるかわからない。
いくつかストーリーがあるようだが、そんなにボリュームがあるようには見えない本の薄さである。
「読みたいストーリーが書かれたページに進むと、その内容と同じ体験ができるわ。もしいらないなら、すぐに返してくれて構わない。でも、体験して満足したら最終ページにあなた自身の体験談か妄想小説を書き込んでほしいの」