第1章 それは追体験できる魔法書
まるでシェリーの考えがわかると言いたげな女。
当てずっぽうでも、ほとんどの人に当てはまる内容だ。
真剣に話を聞く必要はない。
それなのに、シェリーは女から目が話せなかった。
女の雰囲気がそうさせたのか、
はたまた急にフラれて心が弱っていたからなのか……
どちらとも言えなかったが
「ねぇ、うちのお店に来ない? あなたにぴったりの本があるの」
そう言って歩き出した女の背を、シェリーは無意識に追いかけていた―――
***
「ここよ」
そう言って女が入っていったのは古書店だった。
古書店は高価な本を取り扱っていることが多く、シェリーは利用したことがない。
「こちらへ」
手招きされ、シェリーは抗うことなく歩を進める。
カウンターの中に入った女は一冊の本を取り出していた。
「これは…?」
薄めの本。表紙と裏表紙は藍色の布でできており、古めかしい本だ。
『夢か現実か』というタイトルが金糸で綴られており、見るからに価値がありそうでシェリーは触れるのを躊躇う。
「魔法書よ。タイトルの通り、夢か現実かわからなくなる本なの」
「…なんか、怖いですね」
意味がわからなかったが、魔法書というだけで恐ろしい。目にするのも初めてだった。
「怖がることないわ。これをあなたに差し上げたくてこの店に招待したのだもの」
「えっ、これを?私に?」
「えぇ、そうよ。この本があれば、素敵な体験がたっくさんできるのよ! 楽しそうでしょ?」
素敵な体験、とは何を指しているのかわからないが、女の口調は本当に楽しそうだった。
「えっと…私、手持ちがなくて。古書って、しかも魔法書ってお高いんですよね」
「あら、差し上げたいと言ったじゃない。お金はいらないわ。ただ、読み終わったらあなたの体験を最後のページに綴って欲しいの」
……ますます意味がわからない。