第1章 それは追体験できる魔法書
そんな怪しい魔法書なんていらない。
そう思っていたはずなのに……
「持って帰ってきちゃった」
シェリーは帰宅後、自室で例の魔法書とにらめっこしていた。
藍色の本はまるでシェリーを誘うかのようにぼんやりと光を放っていた。
魔法書なんて伝説だと思っていたが、本当に実在したのだ。
予定より早く帰宅したシェリーを見て家族は驚いていた。
そして彼が浮気して別れたことを告げると、全然ショックを受けていないシェリーを見てもっと驚いていた。
今のシェリーは別れた元彼より、手元にある魔法書の方が気になっていたのだ。
「他の人の恋愛を、自分がヒロインになって体験できる」
なんとも面白そうな話ではないか。
もしかしたら自分が一生経験できないストーリーもあるかもしれないし、辛い失恋もあるかもしれない。
でもそれは、あくまでも他人の話だ。
しかも実話かもしれないし、妄想かもしれない。
目次が滲んでしまっているのが気になるが、試してみてもいいかもしれない。
シェリーはベッドに寝転がり、ごくりと唾を飲むと『パン屋の娘×幼馴染(貴族)』のページをゆっくり開く。
すると眩い程の光が溢れ、シェリーを一瞬にして包んでいた――